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小田原市成人式ジャック~宗教テロの背景

去る1月10日、小田原市が開催したオンライン成人式において、新成人の抱負を披露する登壇者の一人が、事前に打ち合わせていた原稿によるリハーサルとは全く違う内容の、己が信仰する宗教団体のもっぱら布教宣伝を目的としたゲリラスピーチを行って、市側が成人式のアーカイブ動画含め公開の記録から当事者の情報を抹消した件について、行政側は「信義則違反」というレベルの問題意識で処理しようとし、当事者は雲隠れし、教団は「信教の自由」を盾に想定通りの擁護をして、それぞれが事の本質に触れないよう暗黙のうちに互いの間合いを絶妙に譲り合うようにして時間が流れている。

成人式の中心で「ウィズ・セイビア」と叫ぶ
成人式の中心で「ウィズ・セイビア」と叫んだ幸福の科学青年信者

このことは本質的に「政教分離原則」に抵触した事件であって、小田原市だけの問題では済まない。行政側から記者への歯切れの悪い答弁から、そのことについて一定の認識があることは窺えるが、今日に至っても小田原市は消極的なままで何のアナウンスも行われない様子から、今月末の成人式動画アーカイブ配信の終了を待って、このまま社会的責任を放棄して幕引きを計る構えだ。

本来であれば、まず行政が毅然として原則を示し、そして当事者の責任が糾され、さらにそうした行為に走らせる背後の宗教団体の問題へとシフトするところだが、行政側のぬるい態度のおかげでダメージの拡大を防ぐことができ、教団側は胸をなでおろしていることだろう。

現に教団は、表向き「信教の自由」と開き直った主張を行いながら、一方内部ではこの小田原市成人式についてSNS等で拡散しないよう信者に対して密かに箝口令を発していたことが明らかになっている。

行政側の不作為によって、特定宗教の独善的主張を放置したまま延命に加担したことは、この団体による人権侵害の被害を将来に渡って黙認したことに等しい。

成人式壇上でのゲリラスピーチについて、それを「宗教テロ」と定義するのはいささか酷だと思われるかも知れない。

実際、当事者のパフォーマンスは未熟さと非常識ばかりが際立ち、聴衆には如何わしさや気持ち悪さ全開の狂気アピールに映って結果的に完全な失敗に終わっているわけだが、信教の自由も表現の自由も、法を犯し他者の権利の侵害してまで許容されるものではなかろう。

これは“新成人のヤンチャ”のカテゴリーで笑って済まされる次元ではなく、特定宗派の目的達成のために周到に計画され実行された周囲の迷惑など省みない確信的な宗教活動だ。

教義に基づく自己正当化の論理によって自己陶酔し、悦に浸って他者との信義を裏切り権利の侵害をすることに良心の呵責も覚えず、社会の規範も無視して更に開き直るという、こうした態度がエスカレートして、生真面目な狂気がやがて行きつく先が「地下鉄サリン事件」であったのは、つい数十年前に経験済みのはずで、決して誇張ではない。

凶悪犯罪に身を投じた信者の手記を読めば、それぞれが元々は善良な人間であったことが分かる。純粋なのかも知れないが、世間知らずの未熟な自我が切羽詰まった思いを募らせて、当事者からしてみれば愛他からスタートしたはずの志が、教団の操り人形と化していく姿は、今回の青年にシンクロして見える。

今回の彼の行為については、あくまで彼独自の企画実行であって教団からの直接的な指示はなかったと思う。但し、青年信者を社会的な自爆につながる宗教テロに走らせる背景にあるのは、他ならぬ教祖と教団の存在であることは間違いない。

2020年は、本来は「ゴールデンエイジ」という幸福の科学にとって予言された特別な年の到来のはずだった。

しかし現実には、様々な問題が吹き出して教勢は著しく衰退し、本体の宗教部門ばかりでなく、政治部門の縮小に見舞われた。

トドメには教育部門における長年の悲願であった大学設置についても、文科省から二度目の不認可の内示を受けたことで、不認可理由の公表を恐れて自ら申請を取り下げるかたちで潰えている。

こうして教団全体で厳しい現実に直面し、激しい認知的不協和に晒される状況に陥ったわけだが、それ以降この現状打破を目的として教団内で繰り返し下知されている行動指針がある。

それは教祖の大川隆法から発された「7/30ご教示」というもので、「とにかく信者数に実態を与えよ。実質200万、500万の本信者、活動家をつくる過程が政党、大学の礎になる」というものだ。

またこの際、大川から「文科省の意見に従ってまで認可をとらないでいい。天理大学も三代目の時に認可されている。再申請までに年数を区切らない方がいい」といった趣旨の指示もあった様子だ。

しかし、これを受けた幹部は「総裁先生はお孫様の隆一様の時代に認可されれば良いと、ご存命中の認可を半ば諦めておられたが、弟子として我々はあくまでも総裁先生ご存命中の認可を目指すべき」といった流れに向かう。

そして、エル・カンターレ信仰を持った100万、200万人の信者づくりに向けた伝道を進めると共に、宗教活動・政治活動の一体化を目指し、「活動信者ミリオン、我が町100人の達成、2%の政党支持率を獲得」をスローガンに、幸福実現党を公党に押し上げ、文科省に圧力や口出しが出来る国会議員を輩出した暁に再申請を行うという、例によって現実に立脚しないバカみたいな戦略に決着した。

こうしたオチは、お約束の幸福の科学的な予定調和というもので、そもそも自分にしか関心のない自己愛の塊の小男が、いまさら「孫の代に認可されれば良いと諦める」といった殊勝な態度に転ずるわけがない。所詮それは口先だけで、本音としては、信者の前でイジケて見せて、忖度をさせて一層の滅私奉公を促そうとする見え透いた田舎芝居なのだ。

こうしてまた前後の連続性がない狂乱が再び繰り返され、その渦中の同調圧力が、覚悟を試されているような風潮の形成を助長して、真綿で首を締めるように信者を極端な行動へと追い込んでいく。

90年代の大伝道時期も、世紀末という恐怖アピールに、「今がその時。今しかないんだ」といった希少性や、「光の戦士」などという特権的使命感で高揚感を与え、維新の志士たちになぞらえるように煽動した結果、“脱藩”と言って仕事や家庭や学業を放り出して宗教活動にのめり込む青年信者が続発した。

教団内では、そうした姿を獅子奮迅菩薩だの地湧菩薩などと言って礼賛したが、いったん熱狂が去った後には、伝道カウントに計上したものが、実質的には全く入金(会費納入)に結びついていない現実に直面させられることとなって、それぞれが既に社会的な信用を失ったうえに、さらに教団内の中でも居場所を失う状況になって、深い挫折感を抱えたまま人知れず消えて行った。

こうした問題を生む土壌が幸福の科学の中で連綿と受け継がれている。彼らは教団の煽動によって社会的に自爆死させられたようなものだ。そして当時「時代はいま幸福の科学」と叫んでいたものが、今や「ゴールデンエイジ」という煽動によって「ウィズ・セイビア」に入れ替わろうとしている。

成人式ジャックの件では、信者青年は紛れもなく加害者だ。しかし教団と個人という枠組みでは被害者となる視点もまた真実だ。

この事件に対する幸福の科学側の態度からして、当事者の行為について問題点を教導することもなく、むしろ容認し公然と賛美するのであれば、HSU(Happy Science University)などは、実質的に幸福の科学テロリスト養成機関と見て差し支えないだろう。

最後に、当事者の青年に対して。

きっと二世または三世信者なのだろう。こんなセクトの宗教世界に誘った親の責任は、それこそ万死に値すると思う。

だがそれでも、やって良い事と悪い事の分別もつけられず、幼稚な自己満足に浸って責任も取れないというのでは、図体だけデカくなっただけの、新成人とは名ばかりの自分の尻も拭けないガキに過ぎないことを自覚して欲しい。

百歩譲って、この成人式ジャックの動機を汲んだとしても、本来、伝道というのは、修養を重ねて磨き上げた全人格を通じて、人の心の琴線に触れて初めて成就するものであったはずで、安易な手段を弄する姿勢は、真理を粗暴に扱う行為ではなかったのか。

いずれ落ち着いて正気を取り戻すことができた時は、それまで無自覚でいた自らが置かれてきた環境の歪さに気付かされることを意味するから、それができるだけ過酷なものにならないことを祈るしかないが、それでも背伸びして自分の育て直しを焦る必要はないんだと腑に落とせる機会に恵まれることを、密かに願っている。


【関連記事リンク】

やや日刊カルト新聞

幸福の科学信者が“成人式ジャック” 壇上でエル・カンターレの宣伝=小田原市

社説=成人式での幸福の科学問題、小田原市は政教分離原則を明確にすべき

デイリー新潮

小田原市成人式で新成人が“ゲリラスピーチ” 幸福の科学が運営する教育機関の学生

「幸福の科学信者」が小田原市成人式で“ゲリラスピーチ”の波紋 市と教団の見解は?



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土矢浩士(ハンドルネーム:アルゴラブ)

Author:土矢浩士(ハンドルネーム:アルゴラブ)
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