心理操作の研究 ①-2
前段「心理操作の研究 ①-1」に続き、これら社会心理学の分析に基づく意思決定の6つの落とし穴から、それらに影響を及ぼす具体的な手法に展開していきます。
その代表的な手口をあげていきましょう。
(1)「段階的要請法」
(2)「譲歩的要請法」
(3)「特典除去要請法」
(4)「特典付加要請法」
(5)「イエス誘導法」
(6)「恐怖説得法」
一般的には、お人好しで、控えめで自己主張がなく、暗示に掛かりやすい人が操作されやすいと思われがちですが、自意識の強い人間でも、逆にその点を巧妙に擽られれば、相手の術中に嵌ることでしょうし、人生に何度か訪れる危機や試練の時期に、弱った心に付けこまれることもあるでしょう。誰にでも、絶対にありえないことではありません。
人はこうしたテクニックによって段々とマインドコントロールされ、カルトの餌食に成り下がっていく危険性があります。
(1)「段階的要請法」(Foot in the door technique)
承諾させようとする本命の(大きな)要求を単純に行う以前に、まず信者にとって抵抗感の低い軽微な(小さな)要求を通して関係性を構築し、その後に本来の要求へと段階的に引き上げて行く手法です。
一度でも要求に承諾したことがあると、自己知覚が変化することで二度目の要請が断りづらくなり、最初の意志決定に拘束されるようになります。「一貫性」の心理原則が利用されることで、内面的に「逆らいがたい強制力」を感じるようになっていきます。
(例)フリードマンとフレイザーの実験
本命の要求:「安全運転」と書かれた巨大ステッカーの掲示
単純に要求した場合の成功率は17%であったが、先に8cm程度の小さなステッカーの掲示を承諾させ、次の段階で本命の要求を提示した場合の成功率は76%となった。
(ちなみに「善意」に訴える内容であることが意志操作の前提にあります)
(2)「譲歩的要請法」(Door in the face technique)
本命の要求を通すために、初めにわざと過大な要求を提示して信者に拒否させ、その後に密かに目的としていたそれよりも小さな本来の要求を出して、「譲歩」を印象付けるかたちで承諾を取り付けようとする手法です。
信者は依頼を断ったことで、少なからず信者としての良心の呵責を感じています。そこで要求が軽減されると、その「譲歩」が恩恵(借り)として認識され、「返報性」の心理原則が利用されることで自ずと譲歩が促されて、結果的に承諾傾向に向かわざるを得なくなるようになります。
ここでのポイントとして、この「恩恵」(借り)は、必ずしも実際に発生している必要性はなく、あくまでそれが印象付けられさえすれば、コントロールには充分ということです。
(例)チャルディーニの実験
①最初の要求「今後2年間、毎週2時間ずつ青年カウンセリングプログラムへの参加依頼」
②本命の要求「1日ボランティアとして、動物園への子供の引率依頼」
大学内の学生に対して行われ、単純に本命の②の要求をした際には17%の学生の承諾しか得られなかったが、別に①の要求を行って、結果ほとんどの学生が拒否したのち、その学生に②の要求をした場合は、およそ50%の学生が承諾した。
(3)「特典除去要請法」(Low ball technique)
最初の段階で、信者が承諾しやすい好条件で承諾を取り付けてしまった後、何らかの理由によってその条件を取り上げるか、逆に厳しくするなどしても、結果的に要求の吊り上げを達成していく手法で、「承諾先取り要請法」とも言います。
信者は一度、最初の要求に承諾してしまっているためにそれを取り消しにくくなるという、義務感を含め、ここでも「一貫性」の心理原則が利用されています。
(例)チャルディーニの実験
①最初の要求(ロー・ボール)「心理学実験への協力依頼」
②要求の吊り上げ「実験実施のための集合時刻の条件(朝7時集合)」
大学内の学生に対して行われ、単純に始めから朝7時集合と要求した場合の承諾率は31%であったが、別に承諾先取りのステップを踏むと56%に上昇した。
(4)「特典付加要請法」(That's not all technique)
要求を提示する際、初めから承諾の恩恵を含めて依頼するより、後から特典として恩恵(オマケ)を付加するようにして意識させる方が、承諾にかかる信者側の負担(コスト)の認知を変化(錯覚)させ、要求を通しやすくなる手法です。「返報性」の心理原則をベースに、「希少性」が強調されて利用されます。
(5)「イエス誘導法」(Yes set technique)
要求の提案以前に、交渉内容とはまったく関りのない会話の段階から、信者に対して「イエス(はい)」という肯定的返事が返ってくるような質問を積み重ねていくと、その流れの中で本命の要求に対しても承諾を引き出しやすくなるという手法です。
「一貫性」の心理原則をベースに、「好意」といった関係性が併せて利用されます。
(6)「恐怖説得法」(Fear appeal technique)
信者に対し、最初に説得に応じないとこの先で不幸な事態になるという恐怖喚起メッセージを与えて、その後でその恐怖を回避するための明確な方法として本命の要求を提示し、承諾させようとする手法です。
「社会的証明」や「権威」といった周囲や他者との関係性の心理原則が併せて利用され、恐怖喚起メッセージにいかにも妥当性を持たせながら、要求がその問題回避に不可欠であると無批判に信じ込ませることで心理誘導します。
こうした基本的な人間の心理分析や心理操作の手法については、ネットを通じても検索することができます。
専門書を読み込んでいくことができれば一番良いですが、なかなかそうも行きませんし、あくまで自分やごく周囲の防衛、自縛(自己洗脳)解除のためと限ったことであれば、そこまで必要でないかも知れません。
ですので、今回投稿した内容に関連したもので大変参考になった、有益でかつ比較的やさしく理解を深めて頂けると思われるものとして一冊だけご紹介しておきたいと思います。

リチャード・ワイズマン著
「超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか」
文藝春秋社(木村博江訳)
イギリスの心理学者で元マジシャンという経歴をもつワイズマン氏の、ウィットに富んだ語り口で読みやすいと思います。
この方は超常現象などには完全に否定的立場であるので、人によってはその点に抵抗を感じてしまう方もおられるかも知れませんが、その辺の議論は本書の本質ではないので、いったん脇において読んでみて頂きたいと思います。
本書には著者からの有益な提言があります。
以下に少しコメントを入れながらご紹介します。
「カルトのマインドコントロールから身を守る4つのチェック」
1.「段階的要請法」など、意志操作の罠にはまっていないか?
※カルトはまず、軽く小さな事から忍び寄ってきます。最初は千円の植福が、それが七万のペンダント、二十万の額、百万の写影、やがて一千万の像。 或いは、最初は月に一人のN伝道、それが十人のN伝道、映画チケット100枚買い取りなど、思い当たることがあるはずです。
2.組織が異論を認めない環境になっていないか?
※異議を唱えれば一斉に非難され、同調圧力が働き異論を挟めない。また閉鎖的な集団に統制されて外部の情報に触れることができず、内部での「類似性」に居場所を求めるうちに、一般社会との乖離が進行します。自分たちへの批判はすべて、その内容を深く考えることなく、左翼、他宗、悪魔だなどの仕業と、ワンパターンの繰り返しですね。
3.団体のリーダーが神格化され、ことさら超常的な奇跡をアピールしていないか?
※「権威」に対する無批判な服従の罠に陥っていきます。 陳腐な霊言ショー、くだらない祈願、死者が蘇ったなどのフカシ、最近は特にトンデモ話ばかり盛りだくさんです。
4.団体が、信者の苦痛や困難や恥を伴う行為に、儀式(イニシエーション)としての価値を与えていないか?
※本来であればおかしいと拒否できることでも、盲信によって思考停止した状態では、教祖や教団の指示に意味(価値)があるはずだと思い込み、苦痛や困難や恥の感覚を自己正当化して、良心と理性の働きが鈍らされます。
「説明する気はありません。ただ付いて来なさい」と、盲信も疑を挟まずただ従う信仰修行と意味付けしていますね。そして過去世の妻と言い寄り、関係すれば光が入ると言った鬼畜の性の儀式などは狂信の産物以外の何ものでもありません。こうした環境では、やがて犯罪的行為ですら儀式として擦り込みが行われてしまうのです。
最後に、前段で記載した「服従の心理」の中で著者が引用した英国の政治学者ハロルド・ジョセフ・ラスキの言葉を紹介します。
『権威の命令を考えなしに受け入れる人は、いまだ文明人と名乗ることはできない』
※こちらは2012年8月10日「『幸福の科学』撲滅対策本部★したらば営業所」の「資料集Part2」に投稿したものを加筆、修正して転載したものです。
その代表的な手口をあげていきましょう。
(1)「段階的要請法」
(2)「譲歩的要請法」
(3)「特典除去要請法」
(4)「特典付加要請法」
(5)「イエス誘導法」
(6)「恐怖説得法」
一般的には、お人好しで、控えめで自己主張がなく、暗示に掛かりやすい人が操作されやすいと思われがちですが、自意識の強い人間でも、逆にその点を巧妙に擽られれば、相手の術中に嵌ることでしょうし、人生に何度か訪れる危機や試練の時期に、弱った心に付けこまれることもあるでしょう。誰にでも、絶対にありえないことではありません。
人はこうしたテクニックによって段々とマインドコントロールされ、カルトの餌食に成り下がっていく危険性があります。
(1)「段階的要請法」(Foot in the door technique)
承諾させようとする本命の(大きな)要求を単純に行う以前に、まず信者にとって抵抗感の低い軽微な(小さな)要求を通して関係性を構築し、その後に本来の要求へと段階的に引き上げて行く手法です。
一度でも要求に承諾したことがあると、自己知覚が変化することで二度目の要請が断りづらくなり、最初の意志決定に拘束されるようになります。「一貫性」の心理原則が利用されることで、内面的に「逆らいがたい強制力」を感じるようになっていきます。
(例)フリードマンとフレイザーの実験
本命の要求:「安全運転」と書かれた巨大ステッカーの掲示
単純に要求した場合の成功率は17%であったが、先に8cm程度の小さなステッカーの掲示を承諾させ、次の段階で本命の要求を提示した場合の成功率は76%となった。
(ちなみに「善意」に訴える内容であることが意志操作の前提にあります)
(2)「譲歩的要請法」(Door in the face technique)
本命の要求を通すために、初めにわざと過大な要求を提示して信者に拒否させ、その後に密かに目的としていたそれよりも小さな本来の要求を出して、「譲歩」を印象付けるかたちで承諾を取り付けようとする手法です。
信者は依頼を断ったことで、少なからず信者としての良心の呵責を感じています。そこで要求が軽減されると、その「譲歩」が恩恵(借り)として認識され、「返報性」の心理原則が利用されることで自ずと譲歩が促されて、結果的に承諾傾向に向かわざるを得なくなるようになります。
ここでのポイントとして、この「恩恵」(借り)は、必ずしも実際に発生している必要性はなく、あくまでそれが印象付けられさえすれば、コントロールには充分ということです。
(例)チャルディーニの実験
①最初の要求「今後2年間、毎週2時間ずつ青年カウンセリングプログラムへの参加依頼」
②本命の要求「1日ボランティアとして、動物園への子供の引率依頼」
大学内の学生に対して行われ、単純に本命の②の要求をした際には17%の学生の承諾しか得られなかったが、別に①の要求を行って、結果ほとんどの学生が拒否したのち、その学生に②の要求をした場合は、およそ50%の学生が承諾した。
(3)「特典除去要請法」(Low ball technique)
最初の段階で、信者が承諾しやすい好条件で承諾を取り付けてしまった後、何らかの理由によってその条件を取り上げるか、逆に厳しくするなどしても、結果的に要求の吊り上げを達成していく手法で、「承諾先取り要請法」とも言います。
信者は一度、最初の要求に承諾してしまっているためにそれを取り消しにくくなるという、義務感を含め、ここでも「一貫性」の心理原則が利用されています。
(例)チャルディーニの実験
①最初の要求(ロー・ボール)「心理学実験への協力依頼」
②要求の吊り上げ「実験実施のための集合時刻の条件(朝7時集合)」
大学内の学生に対して行われ、単純に始めから朝7時集合と要求した場合の承諾率は31%であったが、別に承諾先取りのステップを踏むと56%に上昇した。
(4)「特典付加要請法」(That's not all technique)
要求を提示する際、初めから承諾の恩恵を含めて依頼するより、後から特典として恩恵(オマケ)を付加するようにして意識させる方が、承諾にかかる信者側の負担(コスト)の認知を変化(錯覚)させ、要求を通しやすくなる手法です。「返報性」の心理原則をベースに、「希少性」が強調されて利用されます。
(5)「イエス誘導法」(Yes set technique)
要求の提案以前に、交渉内容とはまったく関りのない会話の段階から、信者に対して「イエス(はい)」という肯定的返事が返ってくるような質問を積み重ねていくと、その流れの中で本命の要求に対しても承諾を引き出しやすくなるという手法です。
「一貫性」の心理原則をベースに、「好意」といった関係性が併せて利用されます。
(6)「恐怖説得法」(Fear appeal technique)
信者に対し、最初に説得に応じないとこの先で不幸な事態になるという恐怖喚起メッセージを与えて、その後でその恐怖を回避するための明確な方法として本命の要求を提示し、承諾させようとする手法です。
「社会的証明」や「権威」といった周囲や他者との関係性の心理原則が併せて利用され、恐怖喚起メッセージにいかにも妥当性を持たせながら、要求がその問題回避に不可欠であると無批判に信じ込ませることで心理誘導します。
こうした基本的な人間の心理分析や心理操作の手法については、ネットを通じても検索することができます。
専門書を読み込んでいくことができれば一番良いですが、なかなかそうも行きませんし、あくまで自分やごく周囲の防衛、自縛(自己洗脳)解除のためと限ったことであれば、そこまで必要でないかも知れません。
ですので、今回投稿した内容に関連したもので大変参考になった、有益でかつ比較的やさしく理解を深めて頂けると思われるものとして一冊だけご紹介しておきたいと思います。

リチャード・ワイズマン著
「超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか」
文藝春秋社(木村博江訳)
イギリスの心理学者で元マジシャンという経歴をもつワイズマン氏の、ウィットに富んだ語り口で読みやすいと思います。
この方は超常現象などには完全に否定的立場であるので、人によってはその点に抵抗を感じてしまう方もおられるかも知れませんが、その辺の議論は本書の本質ではないので、いったん脇において読んでみて頂きたいと思います。
本書には著者からの有益な提言があります。
以下に少しコメントを入れながらご紹介します。
「カルトのマインドコントロールから身を守る4つのチェック」
1.「段階的要請法」など、意志操作の罠にはまっていないか?
※カルトはまず、軽く小さな事から忍び寄ってきます。最初は千円の植福が、それが七万のペンダント、二十万の額、百万の写影、やがて一千万の像。 或いは、最初は月に一人のN伝道、それが十人のN伝道、映画チケット100枚買い取りなど、思い当たることがあるはずです。
2.組織が異論を認めない環境になっていないか?
※異議を唱えれば一斉に非難され、同調圧力が働き異論を挟めない。また閉鎖的な集団に統制されて外部の情報に触れることができず、内部での「類似性」に居場所を求めるうちに、一般社会との乖離が進行します。自分たちへの批判はすべて、その内容を深く考えることなく、左翼、他宗、悪魔だなどの仕業と、ワンパターンの繰り返しですね。
3.団体のリーダーが神格化され、ことさら超常的な奇跡をアピールしていないか?
※「権威」に対する無批判な服従の罠に陥っていきます。 陳腐な霊言ショー、くだらない祈願、死者が蘇ったなどのフカシ、最近は特にトンデモ話ばかり盛りだくさんです。
4.団体が、信者の苦痛や困難や恥を伴う行為に、儀式(イニシエーション)としての価値を与えていないか?
※本来であればおかしいと拒否できることでも、盲信によって思考停止した状態では、教祖や教団の指示に意味(価値)があるはずだと思い込み、苦痛や困難や恥の感覚を自己正当化して、良心と理性の働きが鈍らされます。
「説明する気はありません。ただ付いて来なさい」と、盲信も疑を挟まずただ従う信仰修行と意味付けしていますね。そして過去世の妻と言い寄り、関係すれば光が入ると言った鬼畜の性の儀式などは狂信の産物以外の何ものでもありません。こうした環境では、やがて犯罪的行為ですら儀式として擦り込みが行われてしまうのです。
最後に、前段で記載した「服従の心理」の中で著者が引用した英国の政治学者ハロルド・ジョセフ・ラスキの言葉を紹介します。
『権威の命令を考えなしに受け入れる人は、いまだ文明人と名乗ることはできない』
※こちらは2012年8月10日「『幸福の科学』撲滅対策本部★したらば営業所」の「資料集Part2」に投稿したものを加筆、修正して転載したものです。
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