心理操作の研究 ①-1
一般的に「マインドコントロール」と呼ばれる心理操作の手法は、現在、用語としてはそれなりに定着しているものの、まだまだ研究途上にあり、その定義が社会的なコンセンサスを得る段階に至っているとは言えません。カルト問題の側面ばかりでなく、振り込め詐欺などの犯罪への対処の部分でも重要な研究になると思うのですが、残念ながら専門の研究者の方も限られていて、私のような者がこれから勉強したいと思っても、なかなか教材も少ない状況です。
カルト宗教側は、洗脳やマインドコントロールの効果を矮小化して否定しますし、実験検証が困難な中で、一般的な自己責任論による無理解も、この分野の足枷になっている部分もあろうかと感じます。
しかしカルトで言えば、入信前と入信後の不可解な人格変容の現実が確かにあり、その間のプロセスはマインドコントロール論抜きでは解明できません。そうした実際の部分でマインドコントロールは実在し、脱会者がそれを主張することは、自己責任の自覚の有無とは別次元の問題であって、失敗者や被害者を自己責任論によって委縮させるとすれば、それはカルト宗教や反社会的勢力を利する行為に他ならないでしょう。
今回は幸福の科学をはじめとしたカルト宗教に共通する、マインドコントロールの手法について整理してみたいと思います。これらは基本的には日常の営業現場で用いられるセールスマンの顧客説得の交渉術を、人間の行動心理学の観点から解明したもので、こうした手法が直ちに悪質なものとは言えませんが、カルト宗教にとっての顧客にあたる信者獲得の場面や、いったん取り込んでから脱会しにくい状況に心理誘導していく過程で日常的に用いられている現実があることから、カルトの填め手を認識し、狂った教祖や教団から発信される言動の罠に操られることなく、その意図をつねに解析し続けて自己防衛を図るための基本的な知識になると思います。
すでに脱会済みである方々にとっては、(私自身も自省を込めて)過去の熱狂の中にいた頃の記憶を頼りに、いま迷いの中にいる方々にとっては、まさに現在進行形の自らの姿に目を背けずに、個々の経験を遡れば思い当たることが色々とあるでしょう。
まず、カルト宗教が顧客となる信者への影響力を強めて、その意志を巧妙に言いくるめ掌握していく手がかりとなる人間心理の原則を、大まかに6つの側面に分類します。
1「返報性」
2「一貫性」
3「社会的証明」
4「好意」
5「権威」
6「希少性」
これらが心の隙となって、冷静で堅実な判断を鈍らせることになるわけですが、上記の側面について、アメリカの社会心理学者ロバート・チャルディーニの研究成果から、甚だ雑駁ではありますが各項の要点をまとめてみます。

ロバート・チャルディーニ著
「影響力の武器」誠信書房
(社会行動研究会訳)
1「返報性」
人が他者からの恩義に義理堅く、見返りを意識する傾向の指摘です。
平たく言えば、相手から何かしてもらうと、お返しをしないといけないという気持ちといったもので、これを「返報性(Reciprocation)」または「互恵、相互利益(Reciprocity)」と定義しています。
2「一貫性」
自分自身がする行為の全プロセスにおいて矛盾の存在を嫌い、認知から意志決定に至るまで主体的な合理性を貫きたいとする欲求の指摘です。
いったん正しいと決断して行った誓約に対して、あとで不都合な要素が浮上しても当初の決断を自己弁護し続け、自己矛盾を嫌うために、その「認知的不協和」(cognitive dissonance)を解消するための理屈をこじつけてでも誓約にあわせるようにして、あくまで堅持しようとする態度を言い、「誓約と一貫性(Commitment and Consistency)」と定義されています。
3「社会的証明」
人が他者の行為を自己の行為に反映しようとする習性の指摘です。
流行や話題に乗り遅れたくないといった、周囲の行為が個に対して社会的な影響力をもち、それが根拠とされて個の選択を待たずに受け入れられてしまうようなもので、この「社会的証明(Social proof)という定義は、「協調(conformity)」の一種とされています。
この「協調」(社会的同調性)については、社会心理学者ソロモン・アッシュの「協調性実験」というものがあります。
この実験の簡単な概要ですが、まず、2枚の紙を用意し、1枚目に標準的な長さの1本の線分を引き、2枚目には3本のそれぞれ違う長さの線分を引きますが、うち1本だけ1枚目の線分と等しい長さにしておきます。
そして、これらの線分が描かれた2枚の紙を被験者に見せて、1枚目の線分と等しい長さの線分を2枚目の紙から選ばせるという実験を行ったところ、まず被験者単独で選択させた場合の正答率は99%以上であったのに、一方、8人のグループの中に7名のスタッフを「サクラ」として忍ばせた状態で、一人ずつ回答してもらうというようにし、「サクラ」のスタッフにはわざと間違った回答をまとめさせて、最後から2番目に回答するようにさせた他の7名が「サクラ」とは知らない唯一の被験者の反応を実験したところ、正解率が6割にまで低下したということです
被験者は孤立を恐れ、その心理は集団に同調する意思決定に向かった結果で、こうした多数者に対する同調行動には「同調圧力」が働いています。
4「好意」
人が自分に好意を向ける相手に対しては、その要求を承諾しやすくなる傾向を指摘したものです。
他者からの自分への好意を自覚すると、次はその好意を維持したいという欲求が生じ、そこから好意の循環が始まります。この「好意(Liking)」と定義される影響手法には、「身体的魅力」や「類似性」などが強調されて利用されます。
5「権威」
人が権威あるものに対し無批判に従いがちになるという潜在的な心理的圧力の存在を指摘したものです。
この「権威(Authority)」と定義されるものは、必ずしも実在の人や組織ばかりでなく、シンボルであっても権威を装いさえすれば利用することができます。
また、この権威への服従という問題については、閉鎖的な環境下における、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験した心理学者スタンリー・ミルグラムによる「ミルグラム実験(アイヒマンテスト)」という記録があります。
この実験の概要は、「記憶と学習に関する科学研究」という趣旨で集められた被験者が、大学教授の実験者に、先生役と生徒役の2つに分けられ、先生は生徒に対して問題を出し、先生役は不正解だった時に、生徒が装着している電気ショックのボタンを押して電撃を与えるというもので、実験者の指示に従い、先生役は問題毎に15V刻みで電撃を強めて行き、そうして次第に電撃が強くなれば、当然に生徒役の苦痛は増大することになるわけですが、そうした様子に直面し先生役の被験者が躊躇った時、実験者の大学教授が冷徹に毅然とした態度を崩さず、「続けてもらわないと実験が成り立ちません」、「他に選択の余地はないですから続けてください」、「責任はあなたにはありません」といったような催促の言葉をかけ、その反応を観察するというものでした。
実際のところ生徒役の被験者は「サクラ」で、電撃の苦痛は演技であったようですが、この実験の結果は、設定した環境下の時には6割以上の被験者が最大Vでの電撃のボタンを押していたということです。これは人格に異常の認められないごく普通の人間であっても、権威に服従することで野蛮な行為に及んでしまうという実例とされています。
6「希少性」
人は「機会」を失うことに敏感で、そのため「機会」そのものが大きな付加価値となって影響する作用があることを指摘したものです。
数量や期限などに明確な限定を設けて新たに生み出した価値によって需要を引き出すという仕組が、文字通り「希少性(Scarcity)」と定義されています。

スタンレー・ミルグラム著
「服従の心理」河出文庫
(山形浩生訳)
※「心理操作の研究 ①-2」に続く
※こちらは2012年8月10日「『幸福の科学』撲滅対策本部★したらば営業所」の「資料集Part2」に投稿したものを加筆、修正して転載したものです。
カルト宗教側は、洗脳やマインドコントロールの効果を矮小化して否定しますし、実験検証が困難な中で、一般的な自己責任論による無理解も、この分野の足枷になっている部分もあろうかと感じます。
しかしカルトで言えば、入信前と入信後の不可解な人格変容の現実が確かにあり、その間のプロセスはマインドコントロール論抜きでは解明できません。そうした実際の部分でマインドコントロールは実在し、脱会者がそれを主張することは、自己責任の自覚の有無とは別次元の問題であって、失敗者や被害者を自己責任論によって委縮させるとすれば、それはカルト宗教や反社会的勢力を利する行為に他ならないでしょう。
今回は幸福の科学をはじめとしたカルト宗教に共通する、マインドコントロールの手法について整理してみたいと思います。これらは基本的には日常の営業現場で用いられるセールスマンの顧客説得の交渉術を、人間の行動心理学の観点から解明したもので、こうした手法が直ちに悪質なものとは言えませんが、カルト宗教にとっての顧客にあたる信者獲得の場面や、いったん取り込んでから脱会しにくい状況に心理誘導していく過程で日常的に用いられている現実があることから、カルトの填め手を認識し、狂った教祖や教団から発信される言動の罠に操られることなく、その意図をつねに解析し続けて自己防衛を図るための基本的な知識になると思います。
すでに脱会済みである方々にとっては、(私自身も自省を込めて)過去の熱狂の中にいた頃の記憶を頼りに、いま迷いの中にいる方々にとっては、まさに現在進行形の自らの姿に目を背けずに、個々の経験を遡れば思い当たることが色々とあるでしょう。
まず、カルト宗教が顧客となる信者への影響力を強めて、その意志を巧妙に言いくるめ掌握していく手がかりとなる人間心理の原則を、大まかに6つの側面に分類します。
1「返報性」
2「一貫性」
3「社会的証明」
4「好意」
5「権威」
6「希少性」
これらが心の隙となって、冷静で堅実な判断を鈍らせることになるわけですが、上記の側面について、アメリカの社会心理学者ロバート・チャルディーニの研究成果から、甚だ雑駁ではありますが各項の要点をまとめてみます。

ロバート・チャルディーニ著
「影響力の武器」誠信書房
(社会行動研究会訳)
1「返報性」
人が他者からの恩義に義理堅く、見返りを意識する傾向の指摘です。
平たく言えば、相手から何かしてもらうと、お返しをしないといけないという気持ちといったもので、これを「返報性(Reciprocation)」または「互恵、相互利益(Reciprocity)」と定義しています。
2「一貫性」
自分自身がする行為の全プロセスにおいて矛盾の存在を嫌い、認知から意志決定に至るまで主体的な合理性を貫きたいとする欲求の指摘です。
いったん正しいと決断して行った誓約に対して、あとで不都合な要素が浮上しても当初の決断を自己弁護し続け、自己矛盾を嫌うために、その「認知的不協和」(cognitive dissonance)を解消するための理屈をこじつけてでも誓約にあわせるようにして、あくまで堅持しようとする態度を言い、「誓約と一貫性(Commitment and Consistency)」と定義されています。
3「社会的証明」
人が他者の行為を自己の行為に反映しようとする習性の指摘です。
流行や話題に乗り遅れたくないといった、周囲の行為が個に対して社会的な影響力をもち、それが根拠とされて個の選択を待たずに受け入れられてしまうようなもので、この「社会的証明(Social proof)という定義は、「協調(conformity)」の一種とされています。
この「協調」(社会的同調性)については、社会心理学者ソロモン・アッシュの「協調性実験」というものがあります。
この実験の簡単な概要ですが、まず、2枚の紙を用意し、1枚目に標準的な長さの1本の線分を引き、2枚目には3本のそれぞれ違う長さの線分を引きますが、うち1本だけ1枚目の線分と等しい長さにしておきます。
そして、これらの線分が描かれた2枚の紙を被験者に見せて、1枚目の線分と等しい長さの線分を2枚目の紙から選ばせるという実験を行ったところ、まず被験者単独で選択させた場合の正答率は99%以上であったのに、一方、8人のグループの中に7名のスタッフを「サクラ」として忍ばせた状態で、一人ずつ回答してもらうというようにし、「サクラ」のスタッフにはわざと間違った回答をまとめさせて、最後から2番目に回答するようにさせた他の7名が「サクラ」とは知らない唯一の被験者の反応を実験したところ、正解率が6割にまで低下したということです
被験者は孤立を恐れ、その心理は集団に同調する意思決定に向かった結果で、こうした多数者に対する同調行動には「同調圧力」が働いています。
4「好意」
人が自分に好意を向ける相手に対しては、その要求を承諾しやすくなる傾向を指摘したものです。
他者からの自分への好意を自覚すると、次はその好意を維持したいという欲求が生じ、そこから好意の循環が始まります。この「好意(Liking)」と定義される影響手法には、「身体的魅力」や「類似性」などが強調されて利用されます。
5「権威」
人が権威あるものに対し無批判に従いがちになるという潜在的な心理的圧力の存在を指摘したものです。
この「権威(Authority)」と定義されるものは、必ずしも実在の人や組織ばかりでなく、シンボルであっても権威を装いさえすれば利用することができます。
また、この権威への服従という問題については、閉鎖的な環境下における、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験した心理学者スタンリー・ミルグラムによる「ミルグラム実験(アイヒマンテスト)」という記録があります。
この実験の概要は、「記憶と学習に関する科学研究」という趣旨で集められた被験者が、大学教授の実験者に、先生役と生徒役の2つに分けられ、先生は生徒に対して問題を出し、先生役は不正解だった時に、生徒が装着している電気ショックのボタンを押して電撃を与えるというもので、実験者の指示に従い、先生役は問題毎に15V刻みで電撃を強めて行き、そうして次第に電撃が強くなれば、当然に生徒役の苦痛は増大することになるわけですが、そうした様子に直面し先生役の被験者が躊躇った時、実験者の大学教授が冷徹に毅然とした態度を崩さず、「続けてもらわないと実験が成り立ちません」、「他に選択の余地はないですから続けてください」、「責任はあなたにはありません」といったような催促の言葉をかけ、その反応を観察するというものでした。
実際のところ生徒役の被験者は「サクラ」で、電撃の苦痛は演技であったようですが、この実験の結果は、設定した環境下の時には6割以上の被験者が最大Vでの電撃のボタンを押していたということです。これは人格に異常の認められないごく普通の人間であっても、権威に服従することで野蛮な行為に及んでしまうという実例とされています。
6「希少性」
人は「機会」を失うことに敏感で、そのため「機会」そのものが大きな付加価値となって影響する作用があることを指摘したものです。
数量や期限などに明確な限定を設けて新たに生み出した価値によって需要を引き出すという仕組が、文字通り「希少性(Scarcity)」と定義されています。

スタンレー・ミルグラム著
「服従の心理」河出文庫
(山形浩生訳)
※「心理操作の研究 ①-2」に続く
※こちらは2012年8月10日「『幸福の科学』撲滅対策本部★したらば営業所」の「資料集Part2」に投稿したものを加筆、修正して転載したものです。
スポンサーサイト