講談社フライデー事件のような社会的事件の他に、教団がらみの住民トラブル的騒動で象徴的な出来事のひとつに、2007年に東京港区の白金小学校に降りかかった事件があります。
正体不明の市民団体が湧いて、中傷ビラが撒かれる。
以前にご紹介した大川文書に出てくる通りのベタな展開が、この教団の教祖と信者の本質を理解するのに大変分かりやすい事例となっています。
幸福の科学との間で問題を抱える個人や地域の方々にとって、この騒動の中に示される教団の姿は、色々と対応を考えていく上で参考となることでしょう。

「幸福の科学」大川隆法夫妻三男のいじめに町中でビラぱら撒き
長靴にウン○が!“白金小でいじめ 教諭・校長らのもとで組織ぐるみの隠蔽!”
“港区教育委員会の指導室長のもとで港区の子供が見殺しに!!”
12月中旬、区教委の指導室長や白金小学校の校長や教諭などの実名をあげ、激しく糾弾する内容のビラが、都内でも有数の高級住宅地、港区・白金を中心としたエリアで配られた。
どちらも、「港区白金小の児童を守る会」となっているが、連絡先などはない。
ビラにはこんな経緯が書かれている。
“港区白金小で、児童が長靴に大便を入れられるいじめ事件がおこった。担任は被害児童を叱責し、被害児童を加害児童に謝罪させた。児童は以前にもしつようないじめをうけていた。現在、児童はPTSDで不登校状態”

「ビラが配られているのを最初に確認したのは12月15日でした。港区の庁舎前と教育センター前で、7、8人の方が配っていた。『どなたですか?』と聞くと、『(いじめを受けた児童の)保護者の代理のものです』と言うので、『保護者は誰ですか?』と聞くと答えませんでした。次は20日。白金高輪駅や高輪台、白金台、JR目黒駅、そしてバス停など多くの場所で確認されました」(区教委)
その"保護者"こそ、「幸福の科学」の大川隆法総裁と、その妻であるきょう子副総裁なのである。
15年前には「フライデー事件」で一躍有名になったあの教団で、女優の小川知子(57)や故・景山民夫のデモ姿を覚えている人も多いだろう。
ビラ配りについては、
「(教団の)有志だと思います。オウムやフライデーのときもそうでしたが、そういうのが下のほうから湧き上がってくるんですね。宗教信仰を持つ者には『おかしいものはおかしい』と声をあげる方もいますから、そういう方がやられているのかと思います。参加するのを我々は止めませんので」(「幸福の科学」広報局長)
ビラだけではない。12月25日発売の月刊誌『ザ・リバティ』(幸福の科学出版)の2007年2月号では、「『いじめ隠ぺい』が子供を殺す」という大特集を組み、大川総裁の「いじめ問題について」の緊急法話、そして「発覚した東京・港区立の『名門』白金小学校のいじめ隠ぺい疑惑」などなど、ビラと同様の内容が、実に28ページにもわたって展開されている。
(記事中のザ・リバティ2007年2月号広告)そこには、いじめの"被害者"として白金小五年生の児童がこう紹介されている。
“ Y君(11歳)(原文は実名)=幸福の科学総裁・大川隆法、同副総裁・大川きょう子夫妻の三男”
大便か、それとも腐葉土か教団が主張するいじめの実態は、6ページにわたる「いじめ事件ドキュメント」に示されている(
<>内は記事より引用)。
11月15日。白金小の五年生のあるクラスでは、学芸会の劇の練習のために、衣装の着替えが行なわれていた。Y君が役柄のために、長靴に履き替えようと
<左足を押し込んだ瞬間、足先にグチャッと生温かい感覚>があった。
長靴を脱いで見ると、
<靴下の先にべっとりとこげ茶色のウンチがついており、異臭を放っていた>。
「ウンコだー」と叫ぶY君の周りには数人の児童が集まり、また周囲ではクラスメートのA、B、C君らが笑い転げていた。
<Y君は一人で長靴と靴下にこびりついたウンチを、濡らしたトイレットペーパーなどを使って何度も何度もふき取った。鼻を突く強烈な汚物臭と、便に混じったネギらしきものの皮やヒジキなどが、その後も鼻と目にこびりついて離れなくなった>A君やB君にからかわれつつ、Y君は冷静に担任に報告、担任から指示され、保健室に靴下を洗って貰いに行く。
<ところが、保健室のK養護教諭(原文は実名)は、「君がウンチをお漏らししたんだから、家に持って帰って洗いなさい」と突き放す始末>で、誰かにやられたとY君が訴えると、しぶしぶ消毒液をかけたり洗濯をしたりした。
帰宅したY君は、五年生になったころから続いていた「いじめ」について、両親に打ち明けた。そこで、両親はさっそく翌朝には学校に対処を依頼。だが、学校側からは
、<「あれは土だった。Y君が勘違いしている」>という回答。Y君は泣き出してしまった。
いじめは、Y君が五年になり、担任がN教諭(原文は実名)になってからはじまった。
<「ゴリラ」「デブタヌキ」「糖尿病」「ナルシー(ナルシスト)のYが来た。みんな拍手で迎えてやれ」>いじめグループのリーダーはA君。ほかにもC君からは、
<十数発のパンチや膝蹴りを浴びせられ、Y君は太ももに全治5日の打撲を負った>その後、担任教諭はY君とA、B君を呼び、
<「あれは本当は土だったのに、両親に間違った伝え方をしたお前が悪い。A君とB君は悪くない。お前のお母さんがA君、B君の家に電話してご迷惑をかけたことを、お母さんに謝ってもらいなさい」事情がよく分からなかったY君は、「お母さんに謝らせるのは申し訳ない」と思い、自分が頭を下げた。「ごめんね。そんなつもりはなかったんだ」>結果、11月28日以降、Y君は小学校を休んでいる。病院の診断は「心因反応」。
記事内容が真実であれば、たしかにひどい「いじめ」と、学校側の不適切な対応があったことになる。だが、区教委に確認すると、
「長靴に何かを入れられたのは事実ですが、学校側は大便ではなく腐葉土のようなものであったのではないかと考えています。確認や断定はできませんが、養護教諭は、保健室で臭いを嗅いだとき、そのような悪臭はなかったと話しています。もしも大便などだったら、Y君の靴や靴下を洗うときに手袋をするところですが、それもしなかった。ただ、Y君が気にしていたので消毒薬をスプレーしてあげたようです。Y君の周囲の児童も、近寄ったとき、そんな臭いはしなかったという子も多いのです。記事に書かれているような養護教諭や担任教諭の言動も、調査の結果、認められなかったものが多いのです」
言葉や暴力による"いじめ"はあったのかと聞くと、
「ほかの児童がY君に、デブと言ったことや、蹴ったことがあるか、ないかといえば、それはありました。ただ、それだけを切り取るとおかしなことになって、たとえば、『Y君にデブと言われたから言い返した』、『蹴られたので蹴り返した』という児童もいることが、Y君のご両親の訴えにより聞き取り調査をした結果わかりました」(同前)
Y君は「法王子」のひとり双方の認識の間にある溝がどんどん深まっていった経過をたどろう。
「最初はお母様が"いじめた子"の家庭に直接お電話をなさったようです。しかしその後、区教委への対応の要請にいらしたのは、『幸福の科学』の名刺を出す方、そして弁護士などの代理人でした。区教委としては、あくまでもY君は小五の児童のひとり。教団のご子息で特別だとは考えません。保護者の方とお話をしたいと希望しましたが、それは一度きりで、あとは代理の方との交渉になっています。12月12日に行なわれた保護者会にも代理の方四名が出席されました。子供同士のことは、本来学校の中で解決をしたいのですが‥‥‥」(同前)
いじめ問題で保護者側が弁護士まで同伴してくることは例がないと区教委は困惑する。大川家の要望は、以下のとおりだという。
「担任教諭の交代と、"異物"を入れた児童を特定して謝罪をさせなさいということです。しかし、ほかの児童もおりますし、学期途中で担任が代わるのはとても大きな影響があるので、それはできない、と申し上げています。児童の特定も、教育的配慮から考えて、いろいろな聞き取りもしましたが、やった子をみつけるというのはなかなか難しい、とお伝えしています」(同前)
しかし、教団は、こう反発する。
「学校が要望に対して答えてきた中に、Y君と担任の話し合いの場を設定する、というものがあります。しかしY君は、『とにかく先生には会いたくない』と言いPTSDの症状が出ているんです。なぜそれを悪化させるような無神経なことを言うのか」(教団広報局)
ある同級生の保護者はこう語る。
「担任の先生はこのひと月ほどで、げっそり痩せてしまいました」
さらに、"いじめた側"とされている児童の家庭にも、代理人が直接謝罪を求めて交渉しているという。
いじめ問題で学校側と保護者が対立する構図はめずらしくない。しかし、このケースをややこしくしているのは、"いじめられた"という児童が宗教団体の教祖の息子だったことだ。
Y君の母親、大川きょう子氏に取材を申し込んだところ、応じたのはやはり「代理の者」。教団の広報局長や弁護士など四人であった。
教団側は、11月15日の"事件"以降、三度にわたって両親が学校側と面談したと説明した上で、
「総裁・副総裁が親としてちゃんと対応したことに、学校側がちゃんと誠実に対応さえしていれば、何も問題はなかったのです」(広報局長。以下同)と主張する。
「今回のいじめの内容にはかなりえぐいものがありまして、『大川、サリン持って来い』だの言われている。ある意味では、宗教差別ですよね。教団にとっては、Y君は法燈継承予定者のひとりであって、(一般には)意味のないことかもしれませんが、『法王子』のひとり。そういう意味で、宗教弾圧・迫害の恐れがあると考えて、代理人をたてることも宗数的には当然です。子供といえども公のかたですから。教団にとっては大事なかたですし。教団護持です」
そして、「まあイコールではないのですけれど、天皇家。例えばですよ、適切かどうかはわかりませんが」と前置きをしたものの、こんな譬えをひいた。
「わかりやすく言えば、愛子さまにいじめがあったときに、じゃあ天皇皇后が直接に(交渉に)毎回毎回出られるか、というと、これはちょっと違うんじゃないかなと思います、やっぱり宮内庁の人間が出るはずなんです。学校側から『Y君はうそつきです』とレッテルを貼られたんです。教団として一番大切な信用のところが汚されてるわけですから、『それはちがいます』と言わざるをえません」
学校側にとっては、一児童ではないかと問うと、
「(学校側には)宗数的素養がないのかもしれませんね」
Y君のクラスメイトの母親はこう心配する。
「これまでは教団が表に立ってY君をえこひいきしろとか、そういうことはまったくなかった。逆にY君はロが達者だから、先生に怒られていたほうです。そういう意味ではごく普通だった。なのに今回のやり方を見ると、やっぱり教団ってこういうものなのかなと思ってしまいますよね。みんなそう感じているから、かえってY君の立場がなくなってしまうんじゃないでしょうか」
(週刊文春』2007.1.4・11合併号)